2007-04-22

組込みソフトエンジニアが読むといいデジタル回路の本

久々に「この本は買いだ!」という本に出会った。

それは、『デジタル回路の「しくみ」と「基本」』という本だ。

組込みソフトエンジニアで電気設計担当の技術者と仕事で話をする機会がある技術者はこの本を買って最後まで読むと、彼らの言っていることが「ああ、なるほどそういうことだったのか」と分かるようになる。

また、組込みソフトプロジェクトのマネージャやリーダーで「こいつはハード寄りのことがわかってないなあ」と思う部下がいたら、この本を買って渡してやるといい。2500円なら間違いなくお買い得だと言える。

この本には、電子回路シミュレータ TINA7 日本語版の評価版が付属で付いてくる。この電子回路シミュレータが優れもので、いろんな回路を作れる上に、回路上のポイントにプローブを当ててオシロスコープで波形を眺めたり、3次元で部品類を眺めることができる。

著者は東京電機大学高等学校教諭の小峯龍男さんで、非常に丁寧に電気回路の初心者がゼロから学べるような構成で基本となることを一つずつ丁寧に解説してくれている。

例題の回路もすべて同梱されおり、最終例題として小さな CPU、電卓を作ってみるというゴールが設定されている。 『CPUの創りかた』 も良い本だと思ったが、『デジタル回路の「しくみ」と「基本」』はPC上のシミュレーションで電子回路を基礎から学ぶことができるところが良いところ。

例によって例のごとくはじめにの文章を紹介しようと思う。

デジタル回路の「しくみ」と「基本」はじめにより引用】

 私がはじめて使った電子回路シミュレータソフトは、DOS(ドス)ベースのモノクロGUI(グラフィック・ユーザ・インタフェース)でした。それでも、シミュレーションした回路をワンチップマイコンへ転送して、実物のLED(発行ダイオード)や小型モータを制御できたときに感激は、オシロスコープ(波形観測器)で初めて期待する波形を出したときの感動と同様に今でも鮮明です。

 ここに「TINA」という素晴らしいシミュレータソフトがあります。我流でICをいじり始めた私からすると、何と便利なソフトかと思います。ひとつだけ残念に思うことは、TINAでは回路の組み立てに失敗しても、コンデンサをパンクさせたり、抵抗器の被覆焼け焦げたり、ICのパッケージが火傷するほど熱くなるという経験をできないことです。

 バーチャル体験を否定するわけではありませんが、工作少年だった私としては、指先のキーボード操作を学習するだけではなく、いつかは実際に本物の回路を作ってみて、実際の質感とはんだの溶ける臭いを経験することが大切だと今でも信じています。

 本書は、私自身のICとの付き合い方を思い出しながら執筆しました。それは、初めに動かしたいものがある。こうすれば動く、それは何故なのか。という教科書とは逆順の手法です。
 題材もゲーム感覚の回路を揃えました。何よりも目の前のパソコンが実験室に変わってしまうのですから、よくある教科書と違って最後まで絶対に飽きません。

 これからデジタルICの勉強を始めようとする方は、本書でイメージをつかんだら、いつかは基板の上に実際の回路を作ってみてください。また、すでに回路の実験を経験していて、本書でシミュレータソフトの挑戦する方は、パソコンの中で動く回路と測定器に新鮮な驚きを感じてください。

【引用終わり】

「はじめに」を見ただけで、この本の良さがいろいろ分かる。たとえば、DOSを(ドス)とふりがなをふり、GUIを(グラフィック・ユーザ・インタフェース)、LEDを(発行ダイオード)、オシロスコープを(波形観測器)と説明している。これだけ見ても小峯先生は小学生や中学生がこの本を読むことを想定していることがうかがえる。

中学生でも分かるように丁寧に書いているのだから、電子回路をまったくさわったことない組込みソフトエンジニアでも、電子回路の基礎が学ぶことができ、最後は簡易電卓が電子回路でどのように動いているのか理解できる。

また、小峯先生が書いている「回路の組み立てに失敗しても、コンデンサをパンクさせたり、抵抗器の被覆焼け焦げたり、ICのパッケージが火傷するほど熱くなるという経験をできないことが残念」というコメントも同感だ。「初めに動かしたいものがある。こうすれば動く、それは何故なのか。という教科書とは逆順の手法」というのも、自分の「具体から抽象へ」のポリシーとぴったり一致する。

電源のプラスマイナスを逆に接続し回路を壊してしまったり、コンデンサを「パン!」と鳴らしてしまったりする経験をすることが、ものづくりの実感につながる。

小峯先生のような方の下で勉強できる高校生は幸せだと思う。でも、この本を最初から最後まで通していろいろな回路を実験してみることで、小峯先生の授業を受けたことと同じ体験をすることができるだろう。

付属しているTINAも非常にすぐれたシミュレータで、印刷できないなどの制限はあるものの、この本にある例題を一通り体験できることから、電子回路の基礎を学ぶための道具としては、この上ないツールである。

この本をマスターした部下が「自分はデジタル回路のおもしろさに目覚めました。ハード屋さんに転向させてください。」なんて言い出しても僕を恨まないでね。
 

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