2006-07-08

小学生の問題も解けないなんて!

小学一年生の娘が宿題をもらってきた。4文字で一番後ろに“え”が付くものをできるだけたくさん考えてこいという問題だ。

家族4人で頭つきあわせて考えたがなかなか浮かんでこない。どうしても出てこないのだ。結局、数十分が過ぎて、宿題を出された末娘が“くちぶえ”を 思いついた。その後、小学校4年生の上の娘は“油絵”と“胡麻和え”を思いついた。

自分と妻は回答ゼロだった。

この問題がなぜ難しいのか? それは、人間の記憶はシーケンスが重要な役割を担っているからだ。人間の記憶とシーケンスは深い関係がある。このことは『考える脳 考えるコンピューター』にくわしく書いてある。また、『考える脳 考えるコンピューター』でジェフ・ホーキンスは、人間の脳は特に意識しなくても、各センサーから入力される信号から次に起こることを予測しているのだという。その予測結果と実際のセンサーからのインプットが異なると「何かが違う」という感覚を発生させるというのだ。

だから、だれかがあたなの家の玄関のドアノブにヤスリをかけてざらざらさせるといういたずらをするとどういうことになるか。

あなたはいつものように仕事から帰宅し、いつもの道を歩いている。目からはいつもの風景が入力されスーパーの次にはラーメン屋が現れる。脳の中ではスーパーを通り過ぎたころからラーメン屋の感覚が予測されているが、予測と目から入力される情報に差異はないため特に何も感じない。何も感じなくても脳は常に働いている。

しかし、自分の家に近づき玄関のドアノブに手をかけた瞬間に「おやっ」という感覚がわき上がる。ドアノブを握る直前に脳が予測した手の感覚と実際に感じた感覚に相違があったため脳がシグナルを送ったのだ。

これと同じような例で、しょっちゅう感じているのが携帯電話のバイブレータによる着信の勘違いだ。自分は会社では常に胸ポケットにPHSを入れている。音が鳴るとうるさいのでいつもマナーモードにしている。自分のPHSの内線番号が呼ばれるとブルブルッと振動する。

先の脳の予測機能は覚醒しているときは常に働いているため、胸ポケットにさしているPHSがカサッと動くと着信したときの感覚が予測・連想され、本当に着信したかのように勘違いしてしまうのだ。

この勘違いは1日に何回か発生する。PHSが胸ポケットの中で揺れたときに着信の振動の予測が想起されたことにより勘違いが起こる。普段、マナーモードにしておかないで着信音による呼び出しにしておけば、胸ポケットの中でPHSが揺れても振動の連想は起こらないはずだ。

このように、人間の記憶は時間的なつながり、すなわちシーケンスによって記憶され、次に起こることを無意識に予測している。

したがって、過去に経験したことのないシーケンスを初めて試みるときは何事もうまくいかない。冒頭で紹介した最後に“え”が付く4文字の単語探しは、最後の文字が指定されているから難しい。最初の文字が“え”の4文字単語なら、“え”を脳にインプットすることで、連想される単語のうち4文字のものを拾っていけばよい。たとえば、“エプロン”、“襟巻き”、“煙突”など、大人でも比較的簡単に思いつく。

ところが、最後の一文字が“え”の単語となると、このシーケンスによる連想が使えない。もしもくふうするなら、最後に“え”が付く短い単語を考えて、これに修飾語を付けるという方法がある。

たとえば“え”=“絵”と考えて、“絵”に3文字の修飾語を付ける方法だ。絵から単語を連想することはできるので、この方法なら“油絵”を思いつくことができる。“口笛”や“胡麻和え”も同じように“笛”や“和え”を思いつけば、口や胡麻を付けることで4文字単語ができあがる。

『Software People Vol.4』のコラム「人間の考え方,コンピュータの考え方」でも書いたが、自分の経験が積み重なってできたシーケンス記憶と、連想のメカニズムは、自分の中だけにあるものであった、他人のシーケンス記憶とは異なる。

したがって、自分が考える「相手の頭の中」の状態と、実際に相手方のシーケンス記憶の内容が違っているときはうまく意志の疎通がとれないことがある。

このようなときは、双方が共通の認識であるシーケンス記憶の例を探し、その例を使って目的へ導くことが効果的である。

特に抽象的な概念を教えるときにメタファーによる説明が有効なのは、人間の記憶がシーケンスによって刻み込まれており、シーケンスから連想が引き起こされるからに他ならない。

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