2015-02-15

USのヘルスITの取り組み(2) FDASIA 報告の概要

FDASIA Health IT Report (Proposed Strategy and Recommendations for a Risk-Based Framework) を読み進んで行こう。

冒頭の2ページが EXECTIVE SUMMARY (報告の概要)となっている。
A nationwide health information technology (health IT) infrastructure can offer tremendous benefits to the American public, including the prevention of medical errors, improved efficiency and health care quality, reduced costs, and increased consumer  engagement. However, if health IT is not designed, developed, implemented, maintained, or used properly, it can pose risks to patients.
全国に広がるヘルスIT技術はアメリカの公共に巨大な利益をもたらす。その利益には医療過誤の防止、医療の質の向上、コスト削減、消費利用者の拡大を含む。しかしながら、ヘルスITが設計されず、開発されず、実装されず、適切に使われなければ、患者にリスクをもたらす。
着目すべきは、アメリカがヘルスITを単に危険視するのではなく、医療過誤の防止や医療の質の向上、コスト削減に役立つことを認めつつ、正しく使われないと危ないと言っていることである。

規制当局はともすれば自分の身を守ることを第一に考えて、新しいものに対して規制をかけようとだけするケースがあるが、アメリカはヘルスITに関して適切に使われなければリスクがあるものの、使い方を間違わなければ公共の利益に貢献すると明言している。

こういう発想は日本も見習うべきだと思う。新しい技術、目に見えない技術に対して恐れを抱くのではなく、理解してうまく使いこなそうとする姿勢が重要だ。

FDASIAは、3つの機関の共同レポートであることが記載されている。
  1. ONC (The National Coordinator for Health Information Technology)
  2. FCC (the Federal Communications Commission )
  3. FDA (Food and Drug Administration )
1のONCは「米国における医療分野の IT 導入に係る動向」によると医療IT 全米調整官室の略で2004年、HHS(U.S. Department of Health & Human Services)内に、同イニシアティブを主導する機関として設置された。その名の示すとおりUSにおけるヘルスITのコーディネーターの役割を担っていると思われる。

FCCは通信、電信及び電波を管理する米国の連邦政府機関で、(FCC:連邦通信委員会)、FDAは食品医薬品局だから、この3つの異なる政府機関が共同で一つの目的のためにレポートを発行したのだ。
The proposed strategy and recommendations  reflect the Agencies’ understanding  that  risks  to  patient safety and steps to promote innovation: 1) can occur at all stages of the health IT product lifecycle; and 2) must consider the complex sociotechnical ecosystem in which these products are developed, implemented, and used.  
提案する戦略と推奨項目は患者安全に対する当局の理解と革新へのステップを反映している。
1. ヘルスITの製造ライフサイクルのすべてのステージに関わる
2. これらの製造物が開発され、実装され、使用される複雑な社会環境を考慮している
ヘルスITの特徴はネットワークを通して、デバイスやソフトウェアがつながることで一つまたは複数のサービスを提供する点にある。だから、個々の製品の中でリスクが閉じない。

つながることで、新たな利益を生み出す力があるのと同時に、どこまでが製造でどこまでが誰の責任範囲か分かりにくいのがその特徴だ。これこそが、公共の利益に大いに貢献するが、これまでのように個々の製品の市販前の検査のよって安全性を高めるアプローチが効かない世界なのだ。

このブログで繰り返し言っているように、ネットワーク接続で問題を解決していくような大規模で複雑なシステムにおいては、個々の部品の完成度を高める=不具合を許さない Fault Avoidance のアプローチではなく、不具合が起こっても安全装置や冗長性でリスクを回避する Fail Safety や Fault Tolerance のアプローチが有効なのだ。

ISO26262の認証を取れた部品とかツールとかを使うことが安全につながると考えているようでは、ネットワーク化されていくシステムの中で安全を確保することはできない。
The Agencies’ proposed strategy identifies three categories of health IT: 
1) administrative health IT functions,
2) health management health IT functions, and
3) medical device health IT functions.
我々が提案する戦略はヘルスITの3つのカテゴリを定義する。
1) 行政管理上のヘルスIT機能
2) 健康管理のヘルスIT機能
3) 医療機器のヘルスIT機能
We believe that administrative health IT functionalities, such as billing and claims processing, practice and inventory management, and scheduling pose limited or no risk to patient safety and, thus, do not require additional oversight.
行政管理上のヘルスIT機能、例えば患者リスクがまったくないか限定的な会計処理、請求処理は、それ故に追加監視要求の必要がないと考える。
Health management functionalities include, but are not limited to, health information and data exchange, data capture and encounter documentation, electronic access to clinical results, most clinical decision support, medication management, electronic communication and coordination, provider order entry, knowledge management, and patient identification and matching.
We believe the potential safety risks posed by health management health IT functionality are generally low compared to the potential benefits and that strategies to assure a favorable benefit-risk profile of these functionalities should adopt a holistic view of the health IT sociotechnical system.  
健康情報やデータの変換、データの取り出し、書類アクセス、診療結果への電子的なアクセス、診療診断支援、医療管理、オーダーエントリーの提供、ナレッジマネジメント、患者の特定やマッチングなどの健康管理機能による潜在的な安全リスクは一般的にヘルスIT社会システム全体が享受する効用から考えると低い。
As such, if a product with health management health IT functionality meets the statutory definition of a medical device, FDA does not intend to focus its oversight on it. 
もしも、健康管理のヘルスIT機能を持つ製品が医療機器の法的な定義に合致するなら、FDAは見過ごさない。
Rather, FDA would focus its attention and oversight on medical device health IT functionality, such as computer aided detection software, remote display or  notification of real-time alarms from bedside monitors, and robotic surgical planning and control. 
むしろ、FDAはヘルスIT機能の医療機器としての注意点と監視にフォーカスするだろう。例えば、診断支援ソフトウェアや、ベッドサイトモニターからのリアルタイムアラームやリモート表示や、ロボット手術の制御などだ。
Such products are already the focus of FDA’s oversight because they generally pose greater risks to patient safety than administrative or health management health IT functionality and FDA oversight is better suited to provide assurance of safety and effectiveness for these functionalities.
そのような製品はすでにFDAの監視下にある。なぜなら、それらは一般的に行政管理や健康管理のヘルスIT機能よりも患者安全のリスクが高いからである。そしてこれらの機能の効果と安全の保証の提供に、よりFDAは関心を集中させている。
The Agencies’ proposed strategy and recommendations focus primarily on a risk-based framework for health management health IT functionalities. We identify the following four key priority areas and outline potential next steps that could be taken to help more fully realize the benefits of health IT:
規制当局として提案する戦略と推奨は健康管理ヘルスIT機能に対してリスクベースのフレームワークに焦点を当てている。我々は次の4つの優先的な領域とヘルスITの利益を現実化するのに役立つであろう次のステップを定義している。
I. Promote the Use of Quality Management Principles;
II. Identify, Develop, and Adopt Standards and Best Practices;
III. Leverage Conformity Assessment Tools; and
IV. Create an Environment of Learning and Continual Improvement.
I. 品質管理の原理の利用推進
II. 定義と開発と標準の導入及びベストプラクティス(成功事例)の積み上げ
III. 適合性評価ツールの活用
IV. 学習環境と継続的改善の創設

These priority areas share three critical characteristics
これらの優先領域は次の3つの重要な特徴を持つ。
1) their application can be tailored using a risk-based approach;
2) they have relevance at all stages of the health IT product lifecycle and to all health IT stakeholders; and
3) they support both innovation and patient safety. 
1) これらはリスクベースドアプローチを応用することができる。
2) すべてのヘルスITの関係者(製造業者)とヘルスITの製造ライフサイクルのすべてのステージに関連を持つ。
3) これらは患者安全とITイノベーションの両方を支援できる。
In each of these priority areas, we believe the private sector can play a strong role.
我々は、これら3つの優先領域それぞれに、民間企業が強い役割を担うと考えている。
The Agencies have also identified an additional key component of the health management health IT framework: the creation of a Health IT Safety Center.
我々はヘルスIT安全センター健康管理のヘルスITフレームワークの追加のキーコンポーネントも定義している。
This public-private entity would be created by ONC, in collaboration with FDA, FCC, and the Agency for Healthcare Research and Quality (AHRQ), with involvement of other Federal agencies, and other health IT stakeholders.
Healthcare Research and Quality (AHRQ)や関係する政府機関、他のヘルスIT関連機関FDA及びFCCとの協調のもと、ONCによって公的・私的な構成要素が作成されるだろう。
The Health IT Safety Center would convene stakeholders in order to focus on activities that promote health IT as an integral part of patient safety with the ultimate goal of assisting in the creation of a sustainable, integrated health IT learning system that avoids regulatory duplication and leverages and complements existing and ongoing efforts.
ヘルスITセーフティセンターは、既存の努力を補完し、活用し、規制の二重化を避ける統合された継続可能なヘルスIT学習システムの創設を目標にした患者安全に欠くことの出来ないヘルスITの推進活動に焦点を当てるために関連機関を集めるだろう。
The Agencies recognize the importance of health IT to our Nation’s health as well as the significance stakeholder input will play in the development of a risk-based framework for health IT that promotes innovation, protects patient safety and avoids regulatory duplication. 
重要なステークホルダーのインプットがヘルスITの革新、患者安全の保護、二重規制の排除を考慮したリスクベースフレームワークの開発の中で役割を果たすだけでなく、我々はすべての健康に対するヘルスITの重要性を認識している。
The proposed framework and priority areas contained in this report are not binding, do not create new requirements or expectations for affected parties, and do not create or confer any rights for or on any person. 
このレポートに含まれるフレームワークの提案と優先領域は、(当事者を)縛り付けることなく、関係各所に新たな要求や期待を追加しないし、また何人にもいかなる権利・権限を見いださない。
The Agencies seek public comment on whether the focus areas identified in this report are the appropriate ones – and whether the proposed next steps, described below, will lead to an environment where patient safety is protected, innovation is promoted, and regulatory duplication is avoided. We also plan to convene a public meeting on the proposed strategy and recommendations included in this report within 90 days of the report’s release.
このレポートで確認される焦点域が適切なものであるかどうかについての一般のコメントを我々は求める。– そして、提案された次のステップ(以下に記す)が患者安全が保護されている環境につながるかどうかにかかわらず、イノベーションは推進され、規制の重複は避けられます。レポートリリース90日間以内にこのレポートに含まれる提案された戦略と推薦に関して公的な集会を招集する予定である。
After receiving public input and finalizing our proposed strategy and recommendations, the Agencies intend to actively engage stakeholders in an ongoing collaborative effort to implement the framework.
パブリックコメントを受けて、我々の提案された戦略と推奨を仕上げた後に、我々は、フレームワークを実行するために進行中の共同作業の中にステークホルダーを集結させるつもりである。
ここまで、EXECUTIVE SUMMARY を意訳してきて分かるのは、繰り返しになるが、ヘルスITが環境や時代に合わせて自在に変化しながら、医療過誤の防止、医療の質の向上、コスト削減、消費拡大に貢献できることを十分に理解しつつ、患者安全を実現するための方針を示しているということである。

そして、そのためにヘルスITを3つの機能に分けて、1)はリスクがない、2)は低リスク、3)はリスクを考慮する必要があるとした。

1) 行政管理上のヘルスIT機能
2) 健康管理のヘルスIT機能
3) 医療機器のヘルスIT機能

さらに、ヘルスITにおいて患者安全を確保するためのフレームワークとして次の4つのステップを定義している。EXECUTIVE SUMMARY の後で詳しく説明される。

I. 品質管理の原理の利用推進
II. 定義と開発と標準の導入及びベストプラクティス(成功事例)の積み上げ
III. 適合性評価ツールの活用
IV. 学習環境と継続的改善の創設

これらの活動では、常にリスク低減を基本に考え、かつ、関係するすべてのヘルスITの接続業者とすべてのライフサイクルプロセス(開発から廃棄まで)に利用でき、患者安全を確保しながらITイノベーションも阻害しないと言っている。

かなり難しいアプローチだと思うが、現実に即した考え方だと思う。そして、特筆すべきは、この考え方を示したのはアメリカの規制する側の立場のAgent だということだ。

ともすれば規制当局は狭い自己利益のための規制を強くする方向に動きがちだが、このレポートはアメリカのヘルスITはどうなるべきかを正面から捉え、全体最適となるような方向性を打ち出している。

その方法論が妥当かどうか、日本の組織にも有効に使えるかをこの後分析していきたい。個人的には「適合性評価ツールの活用」というのが引っかかるが、本文を読み進んで役に立つかどうか考えようと思う。

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